優しかった人

えみちゃんは弟と美人局をしていた。えみちゃんの弟は少年院に入ったことがあるそうなんだけど、そんなふうには見えないとても優しい男の子だった。でも恐喝や詐欺行為をやることに対して何の躊躇もないようだった。
えみちゃんも弟も、私のことを同種の人間だと思っていたみたいだけど、私は犯罪行為のようなことはしなかった。心は荒んでいたけれど、方向性は違っていたんだと思う。とても差別的かもしれないけれど、それはやっぱり育ちなのだと思う。
でも一度だけ、詐欺未遂をした。
ナンパだったかテレクラだったか忘れたけれど、知らない人とホテルに行った。
その人は大学生で、スポーツクラブでインストラクターをしていると言った。ブサイクだけど知的で爽やかな人だった。
色々話しているうちに「こんなことをしてたら良くない」と説教をされた。「ほんとだね」と私は言った。
そしてその人は「自分だったら君を正しい道に導くことができると思う。好きになったから付き合って」と言った。そんなアホな…と思いつつ、私は「じゃまた会おう」と言った。
それで後日電話が来たのだけど、
彼はなぜかとても熱意を持って話してくれていた。それが逆に、私にとってはとても腹立たしく…私は自分を粗末に扱う人にだけ安心を感じるという屈折した感情を持っていたので、大事にしたいとか真面目に生きて欲しいと言う彼のことを疎ましく感じた。
それでも何度か会い「妊娠したかもしれないからお金ちょうだい」と彼に言った。
すごくびっくりしてたけど、少し考えて「じゃ結婚して、産もうよ」と言った。
なんかアホらしくなり「いやウソだし…」と言ったら「うんわかってるけど…」とかなんとか言っていた。
心底自分に嫌気が刺したのと同時に、私は人を騙してお金を取るということは絶対に無理だな、と思った。
その人とはそれ以来会わなかったけど、たまに思い出すし、あの人と結婚すれば良かったかもなぁと、なぜか何度も考える。