スナック

えみちゃんは、施設育ちだった。私たちがそんな生活をしている時にえみちゃんの父親が刑務所から出所したという話を聞いた。
父親はスナックを開き、えみちゃんはそこで働くことになった。
彼女は風俗の仕事が向いていなかったみたいで、しぶしぶラブホテルの清掃員をしていたところだったのでスナックで働くことは割と張り切っているようだった。
でも父親は店の切り盛りをすべてえみちゃんに任せて、自分は友達を呼んで店で騒ぎたいだけのようだった。
その時えみちゃんは20歳そこそこで、完全な素人だったから、すぐに資金繰りに悩むようになった。えみちゃんは再びピンサロで仕事を始めて、そのお金で店の酒を買うようになった。その上、父親に「お前の胸ってでかいよな」などと言われるようになり、身の危険を感じるようになっていた。
私はこれまでえみちゃんに仲間意識のようなものを感じていたのだけど、この頃になると、やはりあまりにも世界が違うと感じるようになった。えみちゃんを取り囲む環境はとても過酷で、しかも逃れらない運命のように思えた。
私も地の底まで落ちたような感覚で生活していたものの、基本的にはごく普通の家庭で育ち、自分からそれを捨てただけであって、その気になればいつでも戻ることができるとどこかで思っていたのかも知れない。えみちゃんに対して、私は大きな差別意識を持っていたのだと思う。